エビリファイは抗精神病薬というカテゴリーに属する薬で、主に統合失調症に用いられます。
しかしながら、その効果の多様性及び確かな有効性から、双極性障害やうつ病にも用いられる薬です。
このエビリファイという薬は効くときには本当によく効きます。
私自身もうつ病の増強療法でエビリファイを使用しましたが、顕著に意欲ややる気が上がるという経験をしました。
そして、著名人でもこのエビリファイが劇的に効いたという経験談を語っている方がいます。
それはお笑いコンビ「松本ハウス」のハウス加賀谷さんです。
ここでは、ハウス加賀谷さんの闘病生活及び復活してからの苦悩を描いた「相方は統合失調症」という本から、特にエビリファイについての体験談をご紹介します。
松本ハウスというお笑いコンビ
松本ハウスというお笑いコンビはご存知でしょうか。
かつて一世を風靡した「ボキャブラ天国」というお笑い番組があり、そこでブレークしたのがこの松本ハウスというコンビです。
松本ハウスは「キック松本」と「ハウス加賀谷」の2人のコンビです。
このボキャブラ天国という番組でのブレークをきっかけに、多くの人に知られるようになりました。
しかしながら、「ハウス加賀谷」さんは、元々統合失調症を患っており、ブレーク後の仕事の忙しさから徐々に体調を崩し、結局表舞台から姿を消すことになります。
ハウス加賀谷の闘病生活
ハウス加賀谷の闘病生活はとても長いものになったようです。
一時期は入院し、その後は自宅で引きこもりのような日々を過ごしていたようです。
表舞台から姿を消してから、実に10年以上の闘病生活を送っていたことになります。
この本によると、親から見ると、
「あの子はもう普通の生活を送ることはできないのではないか」
という想いがあったようです。
そして、ハウス加賀谷の病状が大きく好転するきっかけになったのが、当時はまだ新薬であった「エビリファイ」の服用です。
仲間にエビリファイを勧められる
そもそもエビリファイを使うきっかけは、医者の勧めではなく、同じ病気を患う知り合いからの口コミであったようです。
本には以下のように書かれています。
デイケアで仲良くなった仲間の一人が、新薬の情報を教えてくれた。
「加賀谷くん、今度出た『エビリファイ』っていう薬がけっこういいらしいよ」
「へえ~、そんな薬出たんだ」
症状のことや、薬の話はよく話題にあがっていたが、新薬のことは初めて聞いた。
飲んでいる薬の副作用が強いと悩んでいた加賀谷は、藁にもすがる思いで主治医に相談してみた。
「薬なんですけど、『エビリファイ』は、僕に合いますかね」
主治医は、「う~ん」と少しだけ考えると、にっこり笑って加賀谷に言った。
「いいかもね。替えていこうか」 あまりにもあっさりで驚いたが、移行は慎重に行われた。
個人的な経験でも、友人の勧めである薬を使ったらとてもよかったということがあります。
こういった情報は、実際に使った本人の口コミであるため、非常に確度の高い情報であることが多いです。
そういった意味で、同じ病気を患う友達というのは大切な存在なのかもしれません。
エビリファイが劇的に効いた
そして、ハウス加賀谷は薬をエビリファイに切り替えていきます。
その後の様子がこちらになります。
加賀谷に効果が現れたのは、移行を始めてすぐのことだった。
顔の前を覆っていた膜が剝げ、会話に現実感が戻ってきた。
「すごいぞ。すごくクリアだ」
エビリファイが、加賀谷の体にマッチした。
薬には相性があり、特に精神科の薬にはその傾向が顕著ですが、ハウス加賀谷にはエビリファイが劇的に効いたようです。
相方のキック松本には、以下のように話しています。
「キックさん、『エビリファイ』っていう薬に替えたんですけど、調子がいいんです」
加賀谷に電話をかけると、それまでとは違う、無理をしていない明るさが感じられた。
薬によってこんなにも違うものかと俺も驚いたが、良い方向に向かっていることは、声の張りからも明白だった。
自分に合う薬と出会ったことが、一つのきっかけとなった。
加賀谷の中で眠っていた、芸人復帰への想いに火がついた。
まるでエビリファイという薬の出会いにより、統合失調症が治ってしまったかのようなテンションですね(現実にはそこまではいかないと思いますが・・・)
ただ、自分の経験でも、自分に合った薬に変えることで、症状が大幅に改善されるということがありました。
現代医学では薬の選択肢が多く、どれが自分に合っているかなかなか事前にはつかみにくいところがありますが、いい薬との出会いが病気の回復のきっかけになるというのはままあることのように思います。
副作用の早朝覚醒
あらゆる薬に副作用があるように、当然エビリファイにも副作用があります。
その代表的なものの1つが早朝覚醒です。
ハウス加賀谷の場合にも、この早朝覚醒が起こっています。
早朝覚醒。加賀谷に見られる薬の副作用。
どれだけ疲れていても、加賀谷の目は4~5時間眠るとパチリと開いた。
1日、2日なら対処もできるが、1年中睡眠不足が続けば体はもたない。
睡眠の大切さを知る加賀谷は、普段から二度寝をするようにしていた。
この早朝覚醒、エビリファイではよく見られるようです。
私自身も経験しました。
十分に寝たわけでもないのに、パチッと早朝に目が覚めてしまうんですよね。
そして、その後眠れず、睡眠不足で1日を過ごすということが多々ありました。
ただし、このエビリファイによる早朝覚醒は不快なものではないんですよね。
どちらかというと、自然と早朝に目が覚めてしまい、時計を見たらまだ早朝だったという感じです。
なので、うつ病による寝起きの不快さというのは少なく、早朝だけど目覚めは悪くない、というのが特徴です。
もちろん睡眠が十分にとれているわけではないので、ハウス加賀谷のように二度寝をするなりしないと、1日体がもたなくなってしまうのですが・・・。
参考記事:エビリファイの効果と副作用。意欲は改善するも早朝覚醒が起こる
薬との相性
既に述べたことですが、薬には相性があります。
人それぞれが異なる身体的な特徴や性格を持つことからも、薬にも個々人によって相性があることは明確です。
ですので、例えばこのエビリファイという薬も、万人に効くわけではなく、もちろん使ってもあまり意味のない人も一定数いると思われます。
この薬との付き合い方について、以下のように述べられています。
統合失調症の治療において、薬は一定の効果を発揮する。
急性期においては重要な役割も担う。しかし、どの薬、どれくらいの量が本人に合うかは、人それぞれ異なってくる。
加賀谷と同じ薬を服用しても、症状が改善されない場合もある。
薬については、主治医やセカンドオピニオンの医師とよく相談することが望ましい。
薬はあくまで、一方の翼。回復の土台として支えてくれる。
そこからはもう一方の翼、本人を取り巻く環境が、より大切になっていく。
最後の2文、特に大事だと思います。
まず、薬というのは、あくまでも「回復の土台」です。
その土台の上に、しっかり回復していけるかどうかは本人を含めた環境がとても大切です。
いくら自分に合った薬を使っても、適切な過ごし方をしなければ病気は一向に回復していきません。
薬という補助を利用して、その上に自分の自然治癒力を発揮することで、本当に病気は改善していくものだと思います。
ですので、薬のみに頼らず、また薬を必要以上に毛嫌いするのではなく、適切に薬を使いながら、適切な過ごし方をしていくということが回復のために必要なことだと思います。
メモをとることで症状を把握する
加賀谷は、調子を落としたときには、メモを取るようにしていた。
何があって、どんな状態になってしまったのか。
ストックしたメモは、加賀谷にとって大切な宝物となった。
自分を知れば、次に同じようなことが起こったときの参考にできる。
情報の波が押し寄せてくることも何度か経験していた。
よく言われることですが、日々の状態を記録することはとても大切です。
記録を取ることで、自分では気が付かなかった症状の変化のパターンに気づくことができることがあります。
例えばよくある例としては、
- 天気が悪くなると体調が悪くなる
- 季節が変わると体調が悪くなる
- 生活のリズムを変えると体調が悪くなる
などいろいろなパターンがあります。
個人的にも、
- カフェインを摂りすぎると体調を崩す
- 午前中の疲れを無視するとその後に大きく体調を崩す
- 甘いものを食べすぎるとその後調子がおかしくなる
など、記録を取り、振り返ることで気づけたパターンがあります。
症状の波が気になる方は、是非参考にしてみてはいかがでしょうか。
その後の松本ハウス
長い闘病生活を経て、ハウス加賀谷の体調が回復し、その後松本ハウスは復活を遂げました。
ただし、復活したとは言いながら、もちろん全盛期のような派手な活躍をしているわけではなく、ややこじんまりとした会場でライブを行ったり、また統合失調症に関するセミナーの講師をしたりしているようです。
私自身復活後の松本ハウスのライブに足を運んだことがあります。
正直のところ、ネタはそれほど面白くありませんでしたが、10年以上の闘病生活を経て再びステージに立っている姿を見て感動しました。
なんというか、今がどれほど辛くても、最後に本来の姿を取り戻せればそれでいいのではないかという気持ちにさせられました。
精神疾患というのはとても辛く、回復まで長くかかる病気です。
しかしながら、このような精神疾患を患う人に、このハウス加賀谷の物語は夢を与えてくれるものだと思います。