うつ病になると、徐々に仕事をこなすことができなくなってきます。
そして症状が進んでくると、仕事ができない状態となってしまいます。
このような状態になってしまった場合には、働き続けることは困難なため、しばらく仕事を離れ、休む必要があります。
この休み方には2種類あります。
休職するか、退職するかです。
ここでは、うつ病で働けなくなったときに、休職するメリットデメリットと、退職するメリットデメリットをご紹介します。
休職するメリット
1、傷病手当金が受け取れる
会社を長期で休む場合、傷病手当金という収入の一部を支給してくれる制度があります。
この傷病手当金という制度は、会社の属する健康保険組合が、給与の約3分の2を最大1年6か月に渡り支給してくれる制度です。
参考記事:傷病手当金を活用してお金の負担と不安を減らそう
休職すると無給になると思っている人も多いですが、この傷病手当金という制度により、ある程度収入を確保しながら療養することができます。
このような制度を活用でき、経済的な負担と不安を減らしてくれることが休職するメリットの1つとなります。
ただし、この傷病手当金という制度は繰り返し休職する場合には対象外となる可能性がありますので注意が必要です。
同一の傷病による複数回の申請は認められないためです。
詳細について気になる方は所属する健康保険組合に問い合わせてみましょう。
2、会社員という身分が保証される
2つ目のメリットとしては、会社員としての身分が保証されることです。
普段はなかなか気づきにくいですが、この会社員としての身分が保証されるというのはとても大きなことです。
例えば病院に行けば会社の所属する健康保険により診療が受けられますが、これは会社に所属しているからできることです(所属していない場合には国民健康保険に入る必要があります)。
また、例えば引っ越しをする際には、自分の会社を記入する必要があり、無職の場合には入居を断られることもあります。
ほかにもいろいろありますが、このように会社に所属しているということはそれ自体でとても便利で社会的な信用を得られるものです。
このような会社員という身分が保証されるのが休職によるメリットとして挙げられます。
なお、休職すると会社から籍が抜かれるのでは、と思っている方もいるかもしれませんが、休職してもその会社に所属していることには変わりません。
ですので休職中もその会社の健康保険なども問題なく使えます。
3、戻る場所がある
休職をした場合、上記のようにその会社に所属しているという身分が保証されています。
そのため、ある程度体調が回復した後、再びその会社に復帰し、働くことができます。
もし引き続きその会社で働き続けたいと考えているのであれば、これは大きなメリットとなります。
一度退職して新しい職を探し、新しい職場で一から人間関係を構築し、仕事も覚えていくというのはとても大変なことです。
それに比べると、知り合いもいて環境も周知の場所に戻ることができるというのは、適応のしやすさという点からも大きなメリットと言えます。
ただし、もしその会社の社風や環境などが肌に合わない場合には、必ずしもメリットとはなりません。
その場合には新しい職場を探すことも1つの選択肢となります。
休職するデメリット
1、会社に縛られ続ける
上記でも述べましたが、休職した場合でもその会社に所属し続けることには変わりません。
それはつまり、休職中も会社に縛られ続けることを意味します。
この縛られ続けるということが精神的にマイナスに働くことがあります。
例えば、仕事をできない自分に負い目を感じてしまったり、早く元の職場に戻らないといけないと焦ってしまったり・・・。
このように休職をしても、精神的にきちんと休息がとれない場合があります。
また、会社に所属し続けているということは、休職中も会社の規定に従った行動をしなければいけないということを意味します。
例えば、少し体調のいい時に(禁止されている)副業をしたりすることはご法度です。
このように会社に所属し続けることにより、精神的にも行動面でも会社に縛られ続けるという点はデメリットとして挙げられます。
2、会社との連絡の必要性
既に述べたように、休職中も会社に所属していることになります。
そのため、会社に対し、近況や自身の状態について報告を行う必要があります。
会社としても、管理者責任というものがあるため、休職者を放置しておくことはできません。
休職中の報告方法や頻度、内容は会社や担当者によってまちまちです。
定期的に会社に出向いて人事部に近況を報告したり、上司と定期的にメールや電話のやり取りをしたり、また不定期に必要に応じて連絡が来たりと様々なパターンがあります。
どのような方法になるにせよ、休職中においても会社とコンタクトをある程度の頻度でとる必要があるという点に関しては同じです。
また、休職する際には休職が必要という医師の診断書が必要ですが、休職期間を延長する場合にも随時診断書を取得し、会社に受理してもらう必要があります。
このように、休職中においても会社との関係性は継続し、上司や人事部または健康保険組合といったところと連絡をする必要があります。
そもそも会社が原因でうつ病になった場合、この会社と連絡を取るという行為はとても心身に負担をかけます。
人によっては会社と連絡を取るたびに体調が悪化するという人もいるほどです。
会社に所属し続けている以上は仕方のないことなのですが、このような会社とのやり取りが精神的な負担になるということが休職のデメリットとして挙げられます。
3、復職しても評価は最低
休職してしばらく休んだ後、復職したとします。
そして、当然ではありますが、復職後の評価は最低になります。
ここでの問題は、うつ病で休職したという事実はずっと消えないということです。
つまり、復職したとしてもうつ病で休職した人というレッテルが張られ、復職直後のみならず、その後もずっとこの事実は尾を引きます。
例えば復職後数年が経ち、以前の自分や周りの人と遜色なく仕事ができるようになっても、評価という点に関しては低い評価が継続することがしばしばあります。
一度精神的に問題のある人、というレッテルが張られてしまうと、そのレッテルが残り続けてしまうのです。
会社という場所は往々にして減点主義のところが多いため、うつ病で休職という材料は減点するのに十分すぎるほどの理由になります。
そのためよほどのことがない限り、いい評価というのは付きにくくなってしまいます。
このように、復職後もずっとうつ病で休職した事実が尾を引くというのがデメリットの1つとして挙げられます。
会社の評価がずっと上がらず、もはややる気が出ないので転職したという方もしばしば見受けられます。
退職のメリット
ここからは、退職した場合のメリット、デメリットをご紹介します。
まずはメリットからです。
1、会社を気にする必要がない
休職のところで述べましたが、休職という手段をとったとしても、会社との繋がりは消えず、そのことが回復を遅らせる要因となることがあります。
一方で、退職をした場合には、もちろんその会社との関係性が完全に切れますので、会社のことを気にする必要はなくなります。
休職の場合には会社との定期的な連絡などが負担になることがありますが、そのような面倒なことがなくなるのが最大のメリットとなります。
また、これは人にもよりますが、会社を辞めることにより、大きな解放感を味わうことができます。
そして、会社というのは1つだけでなく、様々な選択肢があるということにも気づかされます(当たり前のことではありますがそのきっかけになり得ます)。
このように、会社という殻から抜け出し、自由を手にすることができることが退職のメリットとして挙げられます。
2、人生を変えるきっかけになる
休職の場合には、早く会社に戻らなければ、戻ったらきちんと働けるだろうか、という不安が付きまとうことが多いです。
一方で、退職してしまうと、そのようなことを気に掛ける必要がありません。
文字通り、ゼロからのスタートとなるため、まずは会社を気にすることなく体調を回復させることに専念することができます。
退職をすると、今後の仕事、生き方などを新たに築いていくことになります。
そのため、これまでの人生を振り返り、どのようなことが自分に向いているのか、どのような生き方が自分にとって心地いいのか、ということを新たに考える機会となります。
うつ病の回復にはこのような自己分析と気持ちの切り替えがとても重要な役割を果たしますが、そのようなきっかけを作ってくれる可能性が高いのが、会社という場所から降りる「退職」となります。
退職のデメリット
1、経済的に苦しくなる場合がある
退職をためらう一番の理由はおそらく経済的な問題ではないでしょうか。
そして、実際に退職をする最大のデメリットは経済的な問題になります。
ただし、注意しなければならないのは、退職をすると無給になるわけではない、ということです。
会社員として働いていた場合、雇用保険に入っていますので、退職をしても失業手当金というものがもらえます。
この失業手当金は、年齢や勤続年数の長さ、働いていた時の収入の多さなどに応じてもらえる額と期間が決まります。
しかしながら、一般的には上記の傷病手当金と比べると、もらえる金額及び期間が少なく、そのためトータルでもらえる額も少なくなります。
このように、退職するとすぐに収入がゼロになるわけではありませんが、働いている時に比べると収入は減り、かつ失業手当金の期間も限られている、という点がデメリットとして挙げられます。
2、空白期間により再就職が大変になる
一度退職をしてしっかりと休み、再び会社で働こうとした場合、新たに雇ってくれる会社を探すことになります。
この再就職をする際に、働いていない空白の期間があると、一般的には雇われる側には不利に働きます。
まず、空白の期間がある場合には、その理由の説明を会社から求められる場合があります(おそらくほとんどの場合聞かれると思います)。
このときにうまく説明できればよいのですが、素直にうつ病で働けなくなり退職したと言うと、採用に二の足を踏む会社が多々あります。
もちろんそうでない会社もあると思いますが、概して精神疾患で退職したという事実は、採用にあたってはマイナスにこそなれプラスになることはありません。
そのため、別の理由を用意して、企業に納得してもらうという方法をとることもあります。
正直この方法は事実を話していないという意味でグレーです。
しかしながら、就職に際しては、多くの人が自分の能力を過大に説明したり、たいして実績も上げていないのにすごい仕事をしてきたかのような売り込みをする場合が多々あります。
そういう意味では許される範疇とも捉えることができます。
企業の側からしても、敢えて自社のネガティブな部分を説明することはなく、やはり良い点を強調して説明することが多いです。
こういうことを踏まえると、必ずしもバカ正直に答えるのではなく、ある程度の大人な対応をすることは許されることなのではないかと思います。
いずれにせよ、空白の期間が発生することにより再就職が難しくなるということはデメリットの1つとして挙げられます。
3、再就職時の給料が下がる
このような空白の期間の説明が難しくなるという点以外にも、働いていない状態で求人に申し込むと、足元を見られるという問題もあります。
例えば、働いている状態で転職の面接をした場合には、基本的に今の自分の年収とその会社の自分と同程度の経験の社員の年収とを参考にして給料の額が決定されることが多いです。
しかしながら、退職した状態で求人に申し込むと、現在は働いていないので上記のような給料の決め方にはならず、より低い給料が提示されるケースが多いです。
理由としては、空白の期間をネガティブに捉えられるという点と、働いていない状態だとどうしても企業側の方の立場が強くなるため、給料を安く買いたたこうとするインセンティブが働くためです。
もちろん交渉によってある程度給料を上げたり、入社後の頑張りにより将来的に給料を増やしていくことは可能だと思いますが、やはり働きながらの転職に比べると不利になるという点は否めません。
4、新しい職場環境、仕事に慣れるのが大変
無事に新しい職場を見つけ、再び働くことになったとします。
この場合には、全く新しい環境で働くため、その環境に慣れるために体力的にかなり消耗します。
また、新しい仕事を覚えていく必要もあるため、体力の消耗に拍車がかかります。
一般的に、復職をして元の職場に戻るのと、新しい職場で働くのとでは消耗する体力にかなりの差があります。
ましてやうつ病明けの脆弱な状態であればなおさらです。
この新しい職場で働くことの大変さは、その職場の環境や、自身の回復度合いに大きく依存しますが、いずれにせよ心身に大きな負担がかかるということは覚悟しておく必要があります。
もちろん、以前の職場が非常にハードで、新しい職場がまったりしているような場合には、復職するよりも体力の消耗が少なく済む場合もあります。
まとめ
こうしてうつ病による休職と退職のメリット、デメリットをまとめてみると、経済的な面及び働き口の継続という観点では、休職の方がメリットが大きいことがわかります。
「うつ病になったら、辞める前にまず休め」とはよく言われることですが、このようにメリットとデメリットを並べてみるとその意味がよくわかります。
では、休職の方が常にいいかというと必ずしもそうではありません。
特にその会社自体の体質に嫌気が差したり、やっている仕事が向いておらずそもそもやる意味を見いだせないような場合には、その会社に居続けることは困難です。
このような場合には、一度退職し、しっかりと体調を回復させると同時に自己分析を行い、今後自分がどのような生き方をするのがよいかをよく考えた上で再出発した方がよいのではないかと思います。
実際そのような経験をし、その後幸せな人生を送っている人も多数います。
また、もし迷うような場合には、退職よりも休職を選んだ方がいい場合が多いです。
一度退職してしまうと元には戻れませんが、休職であればその後どうするかを保留にすることができるからです。
うつ病を患っている時にはなかなか冷静な判断ができないため、身近な人(家族など)に意見を聞くのも大切なことではないかと思います。
その上で、自分の心の声に耳を傾け、どうするか決めていくとよいのではないかと思います。