睡眠薬は、精神疾患で使われる薬の中でも歴史が古く、1900年代始め頃から使われていたと言われています。
今から言うと、100年以上の歴史がある大変伝統のある薬とも言えます。
それほど昔の人も睡眠障害には悩まされていたということなのでしょうか。
今日では、様々な種類の睡眠薬がありますが、その進歩、開発の歴史は副作用との戦いであったと言われています。
睡眠薬の開発の歴史をご紹介します。
最古の睡眠薬はバルビツール酸系睡眠薬
バルビツール酸系睡眠薬の特徴
世の中に初めて登場した睡眠薬は、バルビツール酸系睡眠薬と呼ばれるカテゴリーのものであると言われています。
このバルビツール酸系の睡眠薬は、非常に強い睡眠効果がある、切れの良い薬です。
その作用の仕方は、ざっくりいってしまうと脳全体の機能を落とすことにより、倒れ込むように眠りに落ちるという類のものです。
ドラマの犯罪シーンなどで見る睡眠薬のイメージは、ひょっとするとこのバルビツール酸系睡眠薬に近いかもしれません。
バルビツール酸系睡眠薬は副作用の問題を抱える
この脳全体の機能を落とすという作用プロセスは、多くの副作用を生み出してしまいます。
まず、耐性が非常に早くできてしまい、使い続けているうちに用量を増やさないと同じ効果が得られないという状態になってしまいます。
また、一度使い始めるとなかなかやめられない、という依存性の問題も多く孕んでいました。
さらには、このバルビツール酸系睡眠薬は安全性が低く、大量に飲んでしまうと死に至る可能性があるという致命的な弱点を抱えていました。
このように初めに登場したバルビツール系睡眠薬は、効果は非常に強いものの、とても問題の多い睡眠薬でした。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬の登場
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は副作用が少ない
これらの問題点を改善するために登場したのが、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬です。
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、現在でも使われることの多い系統の睡眠薬です。
このベンゾジアゼピン系の睡眠薬の登場により、耐性や依存性、離脱症状といった問題が大幅に軽減されたと言われています。
またバルビツール酸系睡眠薬に比べ、安全性も高く、大量に一度に服用したとしても死に至るということはほとんどありません。
1960年代からベンゾジアゼピン系睡眠薬が主流に
このようなメリットから、1960年代以降はベンゾジアゼピン系の睡眠薬が主として処方されるようになりました。
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の有用性は高く、1960年代以降数十年にわたり現在まで睡眠薬の主流として使われ続けています。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬の問題点
では、この系統の薬に問題がないというとそうではなく、やはりベンゾジアゼピン系の睡眠薬にも問題点はあります。
まず、バルビツール酸系睡眠薬に比べ、耐性、依存性、離脱症状と言った副作用は軽減されていますが、それでもこれらの副作用がなくなったわけではありません。
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬においても、長期にわたって使用すると、これらの問題点は出てきます。
つまり、長期的に使用するとなかなかやめられなくなってしまいます。
そのため、基本的な使用ガイドラインとしては、漠然と長期に使うことは推奨されていません。
できれば、1か月以内の使用に留めることが推奨されています。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の登場
その後、さらにベンゾジアゼピン系の睡眠薬よりも副作用を低減した睡眠薬が発売されます。
それが、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬と呼ばれるものです。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬というと、ベンゾジアゼピン系と全く異なる睡眠薬のように聞こえますが、実態としてはベンゾジアゼピン系の薬を少しいじったもの(つまり構造は非常に似ている)になります。
ですので、上述した依存性や耐性、離脱症状といった副作用がこの非ベンゾジアゼピン系睡眠薬で大きく改善されたわけではありません。
どちらかというと、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の筋弛緩作用と呼ばれる副作用(薬を服用中に転倒しやすくなってしまうという作用)が低減されたというところに特徴があります。
その為、足腰が弱り、転倒しやすい高齢の形にも処方しやすい薬となっています。
全く新しいタイプの睡眠薬
上述のように、ベンゾジアゼピン系から非ベンゾジアゼピン系への進化は、一部の副作用を和らげるという程度で、それほど大きなものではありませんでした。
しかしながら、近年ではベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系とは全く異なる作用プロセスの睡眠薬が登場しています。
自然な睡眠を促すロゼレム
ロゼレムは2010年に発売された、これまでとは全く異なる作用プロセスを持つ睡眠薬です。
このロゼレムという睡眠薬は、睡眠ホルモンと言われているメラトニンを増やすことによって 、睡眠を促すという作用プロセスを持ちます。
このメラトニンというホルモンは、体内で自然と作られ、眠りを促すものです。
このホルモンを利用しようというのがロゼレムの特徴になります。
こう書くと、ロゼレムはとてもよい睡眠薬に思えますが、実際にはそれほど使われていません。
というのは、確かに自然な眠りを促すという大きなメリットがあるのですが、いかんせん睡眠作用が弱いのです。
そのため、軽い睡眠障害程度であればロゼレムでも眠れるかもしれませんが、本格的な睡眠障害にはほどんど効果を発揮しないという弱点があります。
現在では、軽い睡眠障害や、時差ボケなど一時的な睡眠の乱れに主に用いられているようです。
オキシレンに作用するベルソムラ
このように、残念ながらロゼレムはあまり使われていないというのが実情ですが、2014年に発売されたベルソムラという睡眠薬は、近年大変注目されています。
この薬の特徴は、覚醒に関わると言われているオキシレンという物質をコントロールすることにより、眠りを促そうというものです。
この、オキシレンをコントロールするという作用プロセスは、これまでの睡眠薬にはない、全く新しいものになります。
肝心の効果についても、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬と遜色なく、特に中途覚醒の抑制に優れていると言われています。
また、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬で問題になりやすい副作用についても大きく低減されており、効果と副作用のバランスという点で優れた睡眠薬となっています。
このような特徴から、発売からそれほど年月は経っていないものの、既に多くの処方がなされている睡眠薬です。
ひょっとすると、今後はベンゾジアゼピン系に代わる主流に躍り出る可能性も秘めた睡眠薬であるといえます。
まとめ
このように、睡眠薬の開発の歴史というのは、副作用をいかにして減らすか、という視点で進んできたと言えます。
一方で、睡眠作用をの強さという点に関しては、最古のバルビツール酸系睡眠薬が最も強く、必ずしも最近の睡眠薬の方が強いわけではありません。
より安全性を求めるという時代に沿った流れの中で、睡眠薬も進化してきたということが言えるのではないでしょうか。
個人的に今後期待しているのは、ベルソムラのような副作用が少なく、効果がしっかりとした睡眠薬の登場です。
ベンゾジアゼピン系の薬は即効性があり、確かに睡眠には効果があるのですが、上記で述べたような副作用の問題があります。
私自身、何年もベンゾジアゼピン系の睡眠薬にお世話になり、何度もやめようとして失敗しています。
もちろん効果も大事ですが、いずれやめることも考えると、やはりできる限り副作用の少ない睡眠薬の方がいいというのは、世の中の必然の流れであるように思います。